スポーツツーリズムとまつり(情報発信事業・特別編・鼎談)
平成28年度(株)まちづくり熊谷:情報発信事業・特別編
鼎談★スポーツツーリズムとまつり
日 程 2016年9月7日(水)15:00~17:10
会 場 TKP上野ビジネスセンター ミーティングルーム433
鼎談メンバー
◆荷見雄二(はすみゆうじ)様 (関東運輸局観光部観光企画課長)
◆藤間憲一(とうまけんいち)様 (まちづくり熊谷社長・熊谷商工会議所会頭)
◆大下茂(おおしもしげる)様 (帝京大学経済学部観光経営学科教授)
※地域経営の達人(総務省)/地域活性化伝道師(内閣府)
事務局 まちづくり熊谷、まちづくりラボ・サルベージ
まちづくり熊谷では、『スポーツツーリズムとまつり』と題する鼎談を企画・実施しました。
2時間以上にわたる鼎談の抄録は次の通りです。
鼎談開催の趣旨と進め方
事務局
まちづくり熊谷では、平成28年度に入って、まちづくりに関する情報発信事業に積極的に取組んでおります。地方創生のなか「稼ぐ観光」を進める必要があると感じていることにあります。
本日は、情報発信事業の一環として、現在、弊社のホームページに寄稿いただいている帝京大学の大下先生、観光行政の専門家として国土交通省関東運輸局観光企画課の荷見課長をお招きし、弊社の藤間社長(熊谷商工会議所会頭)の皆様で『スポーツツーリズムとまつり』をテーマにした鼎談を実施させて頂くことができました。熊谷市中心市街地活性化および今後の観光まちづくりの方向についての気づきや発見があればと思っています。
それでは、ここから先の進行は、大下先生にお願いしたいと思います
大下
鼎談の司会・進行を勤めさせていただきます帝京大学経済学部観光経営学科の大下です。「集客論」「観光まちづくり」等をテーマとして、現場に軸足をおいた実践的な研究活動を行っています。
『スポーツツーリズムとまつり』が本日の大きなテーマです。鼎談では、熊谷の特徴を藤間社長にお伺いした後に、ツーリズムの新たな動きと訪日観光客の動向、観光まちづくりを進める組織に求められる機能について、自由に意見交換をし、最後に鼎談の取りまとめとして、熊谷の今後の観光まちづくりの方向性について総括したいと思います。
最初に一言ずつ、ご挨拶をいただければと思います。
荷見
国土交通省関東運輸局観光企画課の荷見です。現職の前に観光地域振興課にいた際に、都内墨田区の観光振興プランの委員会で大下先生とご一緒したことがきっかけで、連絡をいただき本日、出席することとなりました。少子高齢化で地方都市の活力は低下しつつあります。このような中で、地方の活性化の鍵を「観光」が握っているのではないかと思っています。本日はよろしくお願いいたします。
藤間
28歳で熊谷に戻って、青年会議所に入りました。当時はイベントを中心に取り組んでいました。現在は熊谷商工会議所の会頭も勤めさせていただいています。本日はよろしくお願いいたします。
熊谷の個性と特徴
大下
最初に熊谷の個性・特徴について、藤間社長に教えていただければと思います。
藤間
熊谷の原点は、中山道の「宿場町(宿駅)」にございます。宿場としては、第一が本庄の4500人、次いで熊谷の3700人のまちの規模でした。また、明治初期には、3年間だけ熊谷県という時期がありました。「生糸・絹産業」を明治政府の経済の柱にしようとする当時の政治的な意向があったのではないかと推察されます。実際、明治から戦前まで、熊谷は生糸・絹産業による活況をみたところでございます。関連して、養蚕の温度管理の観点からの測候所の設置や、明治16年には、現在でいうPFI事業にあたる事業構想により、日本で初めての私鉄・日本鉄道が開通いたします。絹産業が活況であった時代は、中山道の商店も非常に元気で活況がありました。
戦災を受け中心部は被災をしました。戦災復興にあたって、商業形態を「卸売業」に転換したことが、第二の特徴です。卸売業は、戦後復興から高度経済成長の時期には活性化をみましたが、流通改革によって、現在では残念ながら元気がなくなってきているのが現状です。しかし、埼玉県内では、農業産出額は3位、製造品出荷額等も第3位、年間商品販売額では第4位と、数字上はバランスの取れた市であると思っています。
そして、第三の特徴として、近年、スポーツ文化公園の既存インフラの活用が脚光を浴びつつあります。先日も、メダリストの桐生選手が大会に出場することで、市内で交通混雑が起こる程のブームとなっているのです。ラグビーの聖地だけでなく、陸上競技等でも、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのバックアップ基地として、東日本の中心的施設となることが期待されます。また、2019年にはラグビーのワールドカップの開催予定地となっていることや、リオオリンピックにも多く出場した女子ラグビー選手もおり、熊谷がスポーツにおいても注目されはじめています。
このように熊谷は、中山道の宿場を原点に、生糸・絹産業、卸売業、スポーツと変遷をたどりつつ、時代に即応して乗り越えてきたことが個性ではないかと思っています。
大下
地域の履歴・変遷を簡潔にご説明いただくとともに、今後の展望としてスポーツツーリズムの話までも示唆いただき、早くも、鼎談のひとつの方向性が出たようにも思います(笑)。荷見課長は、外部から見て、熊谷にどのようなイメージをお持ちになっていますか。
荷見
最近は、他の都市に負けたようですが、まず「暑いまち」のイメージですね。次に、新幹線の駅をはじめ、在来線や秩父鉄道等の「交通の結節点」「交通の要所」というイメージです。国鉄時代のかつての同僚には兼業農家が少なくなかったこともあり「農業の盛んな地域」というイメージを持っています。
10数年前に籠原駅前の区画整理事業関連の整備にも関わった経緯がありますが、当時から、都市開発が進展していないとの印象がありますのが残念に思っています。籠原は始発駅でもあるので、通勤客をターゲットとした住居系開発のポテンシャルは高いのではないかと感じています。
大下
やはり「暑いまち」のイメージですか。暑いことは個性ですが、プラスの個性かマイナスの個性かは難しいところですね。
藤間
現在、山形(40.8℃)、熊谷(40.9℃)、多治見(40.9℃)、四万十(41.0℃)とで、「アツいまちサミット」を開催しています。先日、サミットで熊谷を訪れられた時に、熊谷気象台を案内しました。実は、気象台の隣が、昔の蚕業試験場なんですね。現在は空き地となっており、芝生の気象台には涼しい風が通っているのです。「それでも暑い記録が残っているのだから、本当に暑いのですよ」とお伝えしたところです(笑)。
大下
藤間社長のご説明を受けると、「暑いまち」は立派なプラスの個性ですよね。
藤間
江戸時代は、荒川・利根川に挟まれた肥沃な地であるとともに、災害も少ないことから、どちらかといえば「のんびりとした気性」になっているのです。先程、荷見課長から「交通の要所」のイメージをお持ちと伺いましたが、熊谷に住んでいる人はそのイメージを感じていないような気がします。
大下
大学の図書館に『中山道分間延絵図』がありましたので、熊谷の宿場をコピーして参りました。文化3年(1806年)に描かれた絵図のようです。絵図には星川も描かれています。
藤間
上町・下町・横町・旅籠・新宿の5カ町が地域の昔の地区区分であり、まつりのベースとなっているのです。
5カ町が町火消し(自身番)を設置して、自立した地区を形成してきたのです。この絵図は貴重な絵図であると思います。また、星川は、星渓園の湧水として流れており、熊谷染などとの関わりもありました。
大下
熊谷の個性として、根底を成すものは、中山道の宿場や絹関連・染、戦後の商業転換等の「地域の履歴・記憶」、そして「うちわ祭」、さらに「宿場や星川」として取りまとめられると思います。また、熊谷の形成に関わるテーマとして、麦文化や豊かな食文化、緑の空間等の「農」、「染」、「商」等が挙げられました。
熊谷うちわ祭~「不易流行」「静と動のバランス」「人材育成」
大下
全国的にみて伝統的な「まつり」が維持・継承されている地域は、コミュニティがしっかりと残っていて、地域全体が活気づいていると思うのですが、如何でしょうか。
荷見
伝統的まつりになると、出身の方々が帰郷して、普段の住民数よりもかなり多くなることがありますね。
藤間
熊谷は、『のぼうの城』で有名になった忍城の成田氏の管轄でした。その西端に火伏せの神として愛宕神社を建立、そこに合祀されている八坂神社のお祭りが「うちわ祭」です。1750年(寛延3年)、町民109名からの嘆願書(中山道の往還の使用許可願)が許可されて、別々に行われていた夏祭りが一斉に行われることとなりました。それが旧暦の6月21日~22日でした。新暦となって一ヶ月後の7月21と22日の開催日を変えていないことが大切であると思っています。
まつりを運営する体制は2500人。総代というトップが15~20人、その下に祭事係が約30人位、これが大人の団体で、その他にもお手伝いを加えると約100人体制。
その他に、鳶が10人位、若連が30~50人、その下に子どものお囃子会が30~50人。ひとつの町内で200~300人体制となり、12町内を掛けると、2500人程度のスタッフとなるわけです。
このまつりの運営体制は、これからのまちづくりに活かされると思っています。現在、市では独居老人の見守り隊の取組みを展開しようとしていますが、まつりの運営スタッフは、自身でご商売もされている方もいるので、生活必需品や生活サービスにおいて町内調達は可能です。町内の見えない情報も、まつりの運営スタッフの頭の中に入っているので、安否確認だけではなく、その他の困りごとにも十分に対応することができると思いますね。
まつりそのものの集客力は、日程を変えずに取り組んでいることによると思っています。子どもたちが揃いの浴衣を着ることで、ふるさととしての帰属意識も生まれてきます。また、山車にGPSを付けて、リアルタイムで位置情報を発信しています。
このサイトのアクセス数は非常に多いことが特徴。情報については、これからは双方向での情報のやり取りの時代になると思いますね。携帯写真展等を実施し、情報とコメントとを集めることで双方向での情報受発信を実現したいと考えています。うちわ祭ファン倶楽部といった新しいネットワークの構築にも期待しているところです。
それとビックデータの活用、どの地域から誘客しているかを把握することも可能なのです。まつりも単なる集客イベントとしての開催ではなく、双方向での情報活用の時代を迎えていると思います。
最近は、神事とイベントしてのまつりを切り分けて考えて、土日開催へと変更しているところも少なくありません。これは、まつりの原点としての軸がずれることにつながり、衰退を招くことにもなりかねません。神事としての「静」と、賑わいのまつりとしての「動」とが混在していることが、地域の在り様であると思います。子どもの頃から、まつりを通じた地域教育は、いずれUターンにもつながってくることを願っているところです。
大下
うちわ祭の歴史から、今後の取組みとしての地域見守り隊の展開や、子どもの地域学習の効果等、多岐にわたるお話と今後の展開をお聞き、さすがに凄いと感じました。とくに、まつりの原点を守りぬくことと、まつりそのものをふるさと意識と帰属意識の原点であると考えておられることに感動いたしました。
荷見
まつりを継承しつづけるためには、情熱をもって引っ張っていただく先導者の存在が大きいと思いますね。
藤間
まつりを継続・発展するには3つの要素が必要です。第一は「不易と流行のバランス」です。伝統を守りつつも、GPS等の時代の変化には的確に対応していくことが求められます。第二は「神事と賑わいイベントとを混在させておくこと」です。神事の日程は変えないことが不可欠であり、「静と動の混在」が必要です。最後は「人材育成」です。きちんとまつりの起こりから作法にいたるまでの話をテキストとして整え、伝えていくこととが大切です。
以上が3大要素ですが、継続するためには「資金」が当然、必要となってきます。うちわ祭の場合、GPSによってアクセス数が6万~10万アクセスと急増したことで、バナー広告を取れるようになりました。この資金をもとに、毎年、新しいことにチャレンジし、「不易と流行」を展開しているのです。これを繰り返していくと、「流行」で行ってきたものが、いずれは「不易」となっていくと思っています。
大下
「不易と流行」は、観光の基本的な原則です。地域としては、「変えてはいけないもの」と「変えなければならないもの」のバランスによって、リピーター顧客を維持しているのです。
また、顧客自身が変化してくることも観光の特徴で、変えずに維持しつづけていても、観光客の意識が変わってくるため、地域の見方が変わって見えることもあるし、一方で郷愁(きょうしゅう)を感じてもらうことにもなります。
藤間
教科書に出ている埴輪は、熊谷から出土したものが多く、これらは、明治9年頃には国立博物館に寄贈されたものです。地域には多くの文化財が埋蔵されていると思います。利根川・荒川により土地が肥えていたことから、人の生活基盤が整っており、神々の信仰も根付いていたものと推察されます。それもまつりの原点と言えるのではないかと思いますね。
大下
近年、地域での伝統的なまつりが、神社とお神酒(酒蔵)等とセットになって、集客の新たなテーマとなってきていますよね。
荷見
まつりや神社・仏閣に関しては、欧米からの観光客に人気ですね。現状では多言語での説明が少ないため、建築物等を中心に見学されています。酒蔵ツーリズムは、日本酒ブームもあって根強い人気があります。
藤間
まつりの講演を依頼されると、神道の起こりからお話するようにしています。神道の原点は弥生時代ではなく、縄文時代から始まっています。自然崇拝と祖先崇拝がミックスされたものであると思います。稲作文化となると、神様にお供えするものは、米、酒、餅、海の物・山の物という序列があります。酒は供えものとして上位に位置づけられるものであり、神事には関わりが強く、そのためまつりとも極めて関連性が高いものと考えて良いと思います。すなわち、神社(神様)とまつりとお神酒はセットであり、日本人の心に響くもの、必然性のあるものになっているのです。
大下
日本人はストレートに入ってきますね。訪日外国人にとっても、神道を理解していただければ理解されると思います。自然感に対する考え方そのものが、クールな日本につながってくるものと思います。
荷見
日本酒を美味しい飲み物として紹介するだけでなく、その背景も含めて、日本の観光の中で展開することが望まれると思います。
大下
うちわ祭の山車と彫刻は、地域文化の現れであると思いますね。
藤間
熊谷の場合は、妻沼の歓喜院聖天堂が日光東照宮を模して作った技術・技が、うちわ祭の山車と彫刻に関係してきます。腕のよい彫物師と大工が代々継承されていて、地場産の技術で山車や彫刻を制作することができる地であったのです。
大下
文化が育った背景には、肥沃な土地で気候が温暖であったことと、神々への信仰が深いことにあったのでしょうね。当然、豊かな地域、安心・安全な地域であるため、人口集積もあり、来訪もあった。その結果として、文化が創造・継承されているものと見ることができると思います。
今後、熊谷が新しいテーマでの集客を図ることによって、地域の人々と地域外からの来訪者との交流の中から、次の文化の芽が生まれ、育まれることに期待がかかると思います。
藤間
山車彫刻等は文化が形として残っているものです。将来的に維持・継承していくためには、現在の技術である3D等でデータ化して図化することが必要であると考えています。
スポーツとまつりの接点・スポーツと観光の接点
大下
先程からお話の出ている「まつり」と「スポーツ文化」とは、どこか共通するところがあると思っています。例えば、祭りのしきたりに対して、スポーツでは見る・するためのルールがあります。いわば「作法」ですね。また、統一した浴衣を着ること、一方ではスポーツのユニフォームといった「流儀・ファッション」。他にも「食・献立」や「文化」、さらには、まつりの継承としての年番や、地域チーム・サポーターといった「連帯感」等、祭りとスポーツには共通性が大変多いと思うのです。
藤間
スポーツの原点は、まつりに関連する鳶にあるように個人の自立と団体としての協調にあると思います。現在のスポーツは、多くの地域で教育委員会が所掌しているため、どうしても大会運営や、施設の維持・管理を重要視されがちになっています。これらは、スポーツの競技者の視点であり、スポーツ観戦を含む周辺への広がりへと、なかなかつながっていかない。それがスポーツツーリズムへと展開する際の課題ではないでしょうか。誰がそれを牽引するかが最大の課題であると感じています。
大下
所掌事業の話となると、荷見課長は、発言しにくいと思いますが(笑)、いかがでしょうか。
荷見
酒蔵ツーリズムの際には国税庁と、またスポーツツーリズムでは文部科学省のスポーツ庁との関連があります。ニューツーリズムといわれるカテゴリーの新しい観光では、エコツーリズムと環境省、グリーンツーリズムと農林水産省等、観光は幅広い分野と関わるため、省庁連携で取組むべき内容であると感じています。また、実践において、省庁連携は不可欠となっています。
ニューツーリズムの一環ではあるのですが、まだスポーツツーリズムの認知度は低く、インターネット上でもヒットしないのが現状です。野球やサッカーの観戦も、好きなチームの応援に出かけるという立派なツーリズムであると思いますね。
「ラグビーのまち・熊谷」において、スポーツツーリズムへの展開を図るためには、ターゲットと事業展開のメニュー等の戦略を見定めることが必要であると思います。
大下
「スポーツツーリズム」と「観光」とを、法律や制度・しくみの観点から比較してみたところ、両者に類似点が見つかりました。
1964年の東京オリンピックに先立ち、スポーツ分野では『スポーツ振興法(1961.6)』を、観光分野では『観光基本法(1963.6)』を制定しています。しかしその後に目立った動きがなかったのですが、2000年に「スポーツ振興基本計画」を初めて策定します。一方の観光は、2003年の「観光立国宣言」を経て、『観光基本法』から『観光立国推進基本法(2006.12)』、「観光立国推進基本計画」の策定、そして2008年10月に観光庁の設立となります。スポーツでは、同様に『スポーツ振興法』から『スポーツ基本法(2011.5)』へ、そして2015年10月にスポーツ庁が設立されました。
先のオリンピックの際の前に、国際化を意識して「観光」と「スポーツ」に関する基本的な考え方を法律として制定し、その後、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控える中で、それぞれの関連法律をより磨きかけたものへと改訂し、法律に基づいて国としての基本的な考え方を計画としてつくる(「観光立国推進基本計画」と「スポーツ基本計画」)とともに、その実践に向けて専門の外局(「観光庁」と「スポーツ庁」)を設立しているのです。
国としては、法律・制度・基本的な方向・専門組織は示しているのですが、その接点について、官民連携の組織を立ち上げてはいますが、手探りの模索状態ではないかと感じています。
藤間
熊谷では、観光とスポーツの接点の取組みが2つあります。一つは、アルカス熊谷の取組みです。立正大学と熊谷の財界人とでNPOを設立し、6~7人の選手を地元企業へ派遣しています。地域を上げて応援しようとする機運が高まりつつあります。
もう一つは、独立プロ野球チームの武蔵ヒートベアーズ。こちらは株式会社です。チアガールは様々なイベントに参加して、日常化しつつあります。さらに飲食への参入等、スポーツイベントでの輪が広がってきています。
また、妻沼には、なでしこ二世のチームが集まる女子サッカーの大会がありますが、宿泊は群馬の太田です。このような状況があるのだから、熊谷で積極的にもてなすことが望まれるのです。まつりが定着している熊谷ならばできるはずです。なぜならば、祭りは「神様をおもてなしする神事」であるからですよ。スポーツとまつりの接点は『おもてなしの心』でしょうね。
大下
スポーツとまつりの接点としての『おもてなしの心』は、すごくわかりやすいですね。加えて、荷見課長が最初のイメージでおっしゃっていた“暑いまち”をプラスに捉えた『情熱~パッション』も接点にあるのではないでしょうか。
荷見
熊谷ではラクビーのイメージがあるので、それをもっとアピールすることも必要ですよね。
藤間
小学生からタグラクビーをゲーム感覚で楽しむ取組みも実施しています。地域としては、裾野を広げる取組みを展開するとともに、「何故ラグビーなのか」を体系的な戦略をもって取組むことが望まれています。
大下
競技としてのスポーツと、魅せるための戦略とは別で、スポーツを単なる競技・観戦だけとどめずに、「食」や「ファッション」、「グッズ開発」等にまで広げ、「スポーツ文化」が根付き・展開されている地域へと導くことが必要であると思いますね。そこに熊谷の伝統産業や伝統技術である「染」や「絹産業」が関わってくると、地域での必然性が高まってくると思います。
藤間
ビッグスポーツ大会は、オフィシャルスポンサーの関係があるので難しいところもあります。スポンサーシップの企業力を誘引したいと取り組み始めています。
大下
企業誘致も含めてスポーツツーリズムの文化を熊谷に広め、定着させることが基本となるのでしょうね。比企丘陵では、現在人気上昇しているサイクルツーリズムも展開されているとお聞きしています。最初はラグビーから始め、徐々に他のスポーツへの展開を進めていくことが得策と考えられますね。
藤間
サイクルツーリズムについても企業との連携を勧めているところです。サイクルツーリズムは、食への展開にも期待されるところです。利用者ニーズによると、「郷土食」と「垢抜けている雰囲気」等が大切にしている要素のようです。さらに、大学連携により、地図情報と合わせた情報受発信を進めようと考えているところです。
大下
先日、多摩湖に調査にいったところ、サイクルツーリズムを楽しんでいる人が来訪されており、多摩湖を背景に自分の自転車をスマホで撮影されていました。情報発信に使われているのでしょうね。先ほどの地図情報と合わせることで、情報の受発信も進み、ますます聖地化されることと思います。また、サイクルツーリズムは自転車自体が安価ではなく、かつファッションにもこだわられている。競技というより「趣味」の範疇に入るスポーツであり、相応の消費もされるターゲットとして、地域経済への効果が期待できると思います。
藤間
これらの現状だけを束ねて考えてみても、主体的に推進する組織が必要となってくると思います。その基本はネットワークにあると思っています。
ツーリズムの新たな動きと訪日観光客の動向
大下
鼎談の中でも既にスポーツツーリズムや、まつりと関連した酒蔵ツーリズム等のニューリズムの話題が出ていましたが、ツーリズムの新たな動きと訪日外国人観光客の動向について、お伺いしたいと思います。
荷見
ニューツーリズムは、2007年の『観光立国推進基本計画』の策定と同時期に始まりました。最初は、①ヘルスツーリズム、②産業観光、③エコツーリズム、④グリーンツーリズム、⑤ロングステイ、⑥文化観光といったカテゴリーから始められました。全てに共通するものとして「学習」と「体験」が重要視されてきつつあるとともに、例えば、グリーンツーリズムでは、農業体験に加えて、ちょっとした田舎暮らしや農家に宿泊(農泊)するような体験へと発展してきています。
大下
まつりの学習・体験と見学といったツーリズムはないのでしょうか。
荷見
現時点では、旅行会社が造成創出しているツアーは、「東北三大祭り」の見学ツアーといったところしかないように思われます。ローカルなまつりは「着地型旅行商品」として販売されている位ではないでしょうか。
大下
2000万人近く来訪いただいている訪日外国人観光客向けに、まつりを売り出すことが効果的ではないかと思いますが、いかがですか。今年の訪日観光の状況はいかがですか。
荷見
7月現在で1400万人の訪日、前年比26.7%増です。この傾向が続くと11月には2000万人を超えることになると思われます。これまでの訪日客の観光行動は、大阪から入国し、京都・富士・箱根を経由し東京から帰国するという「ゴールデンルート」でしたが、それに変化が見られるとのデータもあります。大都市圏での宿泊ではなく、地方都市での宿泊が増えてきています。これは新幹線整備の影響もあると思います。
大下
訪日外国人は、新幹線を含む国内移動の交通費を安く購入できるパスがあると聞いたことがありますが。
荷見
ジャパン・レール・パスなど、国内交通の安価な商品はありますが、日本国内では購入できません。自国で出国前に代理店等で引換証を購入予約して、訪日後に交換するシステムとなっています。のぞみ等の一部の列車には乗れませんが、比較的経済的なため、リピーター等には好評です。
大下
訪日観光客にとってみると、日本は狭い国ですので、我々が考えているような距離感ではないのです。以前に群馬の水上に滞在している外国人の方にお聞きしましたが、「何故水上を選んだか」を聞いたところ、「銀座への買い物と日本海での釣りを楽しむのに便利だから」との回答でした。オーストラリアやアメリカ等の大陸出身者の距離感は、我々はなかなか理解できませんね。
この距離感からいえば、熊谷は東京の一部であり、先ほどのパスを使えば軽井沢のアウトレットに行き、帰りに熊谷で降りてスポーツツーリズムといった観光行動も十分に考えられるものとなります。
荷見
便利な交通網をもっとPRしたいのですが、便利すぎて地方には泊まっていただけないのが現状です。東京都市圏を拠点とする観光行動となってしまっています。どのようにして地方を始めとして、東京都市圏の一部と捉えがちになる熊谷に宿泊していただけるかをセットで考えていかないと、地域の経済的な効果へとつながらないような気がしています。
大下
地域側としては、一度にすべてを見せるのではなく、最初に訪れた観光客に地域の様々な体験や魅力をアピールして次の来訪につなげることに工夫・知恵をしぼることが大切なのでしょうね。
荷見
スポーツツーリズムの観戦はリピーターが多いと思います。その方々にツイッター等で他の魅力についても呟いて頂けるようにしたいものですね。SNSの広がりは大きいですから。
大下
外国人観光客の志向として、まずは桜があります。「観櫻ツアー」は人気商品にもなっているくらいです。熊谷駅から5分の桜は、商品になると思います。また、うちわ祭も、「躍動感」「情熱」をアピールし、その背景の解説を加えることで観光商品になるのではないかと思います。さらにそこに「食」を組み合わせることで集客効果も上がると思います。
藤間
現実問題として、誰がどのように仕掛けるかが大切であると思います。花火大会のように来訪者の行動が同じようなイベントは、警備体制や熊谷駅の交通処理能力から50万人が限界であると言われています。むしろ、定常的な来訪を仕掛けることが大切であり、どのように地域として稼いでいくかを考えることが求められると思っています。
地方創生は、地方部での「稼ぐ力」に他なりません。地方部ではこれまで経験がなかったことが求められているのです。私は財界の方々に、「まず自分から変えていこう」と伝えています。次に時代や技術の活用等によって「つなぐ・つなげる・つながる」、そして「はぶく」、さらに結果として「イノベーション」。これが産業界に求められるキーワードと思っています。観光やニューツーリズムも産業の一部であると捉えると、これらのことが可能かを追求する必要があると思います。
現在、熊谷の2つのホテルに対して「1泊20万円の商品プランができないか」と相談しています。ひとつのホテルでは薪能を実演しているので、宿泊者だけのための薪能の実演を盛り込んだ商品をつくることは可能です。実施するかは次の段階であり、考えることがイノベーションにつながるのです。スポーツツーリズムも同様で、地元の人だけが知っている、競技者が集まる飲食店があるのです。それをツーリズムの一環として組み込んでみるという新しい展開も、一種のイノベーションにつながるのではないかと思います。
大下
「つなぐ」と「はぶく」から生じる新機軸・再編成等の「イノベーション」を観光やニューツーリズムに活かすことは、とても大切な示唆であると思います。
なかでも「はぶく」というキーワードは、ロボットによる代替機能だけでなく、実は、食分野での「和風化」の極意にもつながるものと思います。観光に関しては、逆の「盛ること」でお得感を出す戦略ばかりをしてきたのです。世界遺産の文化登録を受けた「和食」は、大陸から移入された薬膳料理や宮廷料理から、「はぶく」という行為を通して、「懐石料理」や「精進料理」を創り出したと思っています。お米の核の一部だけで「大吟醸」をつくるように、本当に大切なもの、もっとも素晴らしいものだけを堪能していただくということにもつながるのではないかとお聞きしていました。
割安感の「盛る観光」はいつまでもつづかないように思います。これからは、社長が例示された、限定感や優越感を感じさせるようなプログラムや体験商品の創出が求められてくる時代になってきていると思います。これが「成熟化された観光」ではないでしょうか。スポーツツーリズムも同様で、特別席での観戦とその後、まちなかでのサロン的な飲食施設での食事で気持ちよくもてなしを受けると、宿泊する必然性も生まれてきます。
藤間
ふるさと納税とあわせて「限定のもてなしツアー」を提供することも考えられると思います。地方創生の中小企業向けの事業として設備投資に対する補助金を用意していますが、この時代に必要な投資は「ひとづくり」であると思いますね。
大下
「ひとづくり」という観点ですと、まちなかで大学生がまちづくりに参画している取り組みがあるとお聞きしましたが、そのあたりの状況はいかがですか。
藤間
まちづくりへの参画に、まつりのような“ワクワク”・“ドキドキ”するようなことを加えた「まちづくり支援隊」のシステムをつくる必要があると思います。
大下
うちわ祭の実績があるのだから、熊谷のまちづくりに対しても、「まちなかサロン」での活動の風土はあると感じています。熊谷は立正大学があるので、恒常的に一定の学生のまちづくり分野への参画は可能な条件が整っています。
荷見課長とご一緒した墨田区には大学がないため、帝京大学をはじめ様々な大学と連携して、観光まちづくりのイベントの企画や実践を行っています。大学生や留学生等の若い人材が加わることによって、下町人情を刺激し、また企画に携わっていただいている方々の参画意識を高めることにも効果が出ています。
熊谷のまちなかサロンが創出され、地元の方々がそのことを認めて受け入れていただく環境が整えば、そこに出入りをしたくなる学生や若者も生まれてくると思います。学生は毎年一定の入学生が入ってきて、4年間学んで巣立っていく。その中の何人かは、後輩の活動の応援に時々くる、といった最大のリピーター・サポーターとして育まれていくような空間・拠点になると思います。
藤間
組織化するのにもうちわ祭は使えると思います。山車の後に隊列をつくって巡っています。それを組織的に集め、その組織をまちなかサロンのコアに導くという方法です。何と言っても隊列を作って巡れることが「格好いい」んですよ。
大下
うちわ祭は、組織化のきっかけであり、それを日常的に集える拠点という意味合いではじめることが、確かに現実的であると思いますね。
藤間
先程、大下先生が、まつりとスポーツの接点の話のなかで総括された「パッション(情熱)」は、“血が騒ぐような”“ワクワク・ドキドキする”ような意味合いが加わったものなのでしょうね。「心地よい汗をかくまち」というのがぴったり来るのですが・・・あくまでも“ヒヤ汗”ではなくて(笑)。
大下
いい汗をかければ、風も爽やか、「爽快」にもつながるものとなりますね。
藤間
「いい汗かこう!!」は、JRのDCのキャッチコピーと似ている感じがしますが(笑)。
いま埋もれていた食材を「フードバレー」として活用する企画を考えています。麦踏みの発祥の地、ネギや大和芋等が生産されていますし、最近の注目は「モロコ」です。琵琶湖で採れなくなって、京都に出荷されているのです。素揚げして岩塩の上においたり、苦味があるのでかき揚げにすると最高のつまみになります。
大下
いゃ~本当に美味しそうですね。お聞きしただけで熊谷に飲みに行きたくなりますよ(笑)。
藤間
熊谷のソウルフードとして売り出すだけでは「稼ぐ力」になりません。そこで病院と連携して、健康食材として売り出せるのではないかと考えています。「病気の治療」と「食」と「運動メニュー」とを組み合わせる商品化です。通院は熊谷にくる必然性を生むことにもなり、また運動メニューとセットにすることで滞在・宿泊を促進することにもつながります。
大下
先程のニューツーリズムの中の医療ツーリズムの拡大版であるとともに、ヘルス健康ツーリズムにもあたると思います。スポーツツーリズムと医療ツーリズム、健康増進とをミックスしたような内容で組み立てることは可能ですね。
藤間
先日、栄養学の先生が、テレビで電子レンジの効果的な活用のお話をされていました。これらの情報等も加われば、さらにスポーツツーリズム周辺でのメニューが充実してくると思います。
大下
スポーツツーリズムに関しては、熊谷にスポーツ文化公園という施設のストックとイメージがあることが重要であると思います。かと言って活動のすべてをスポーツ文化公園周辺で実施する必要はなく、病院やまちなかの施設、あるいは星川の遊歩道等も活用し、システムと活動拠点の両方をネットワーク化することが、ますます重要となってきますね。
それにより、まちなか回遊にもつながると思います。また、システムを創出することで、まちなか回遊を誘発することになると思います。
藤間
最近はポケモンGOで、まちなかをウロウロしている人が多いですね(笑)。
大下
ゲームがきっかけで来訪いただくのも良いのでしょうけれど、やはりリアルな体験こそが大切であると思います。様々な地域で、「リアル宝探し」といった、ゲーム感覚でのまち歩き回遊プログラムが創られはじめています。
学生たちは、意外と遊び心を持っていて、思考が柔軟なことに驚かされます。国土交通省の音頭で、道の駅と大学の連携事業を、昨年度より実施しています。うちのゼミは、群馬県の甘楽町の道の駅と連携していますが、甘楽町でのゼミ合宿の際に、自分たちが楽しむために「まち歩きビンゴ」という遊びを考えました。どこにでもあるまち歩きのマップに描かれている観光施設紹介の番号に着目し、[5×5]のマスに番号を適当に書き、マップを頼りにいった先の番号を消していき、ダブルビンゴになったら帰ってくるというタイムレースを考え、実践しました。中央がたまたま「①道の駅」であったこともあり、町が進める「道の駅からはじまる時間旅行」の観光まちづくりプランの考え方とも合致したことから、今年の3月には地元の子どもたちを対象とした[3×3]の「まち歩きビンゴ大会」へとつながり、先月の8月には、道の駅での商品化への展開を意識した「第2回のまち歩きビンゴ大会」を開催したところです。もともとは自分たちが楽しむために始めたものが面白かったのです。
したがって、熊谷のまちなかサロンで学生たちが集っている中での日常的な会話や冗談話の中から、熊谷の新しい体験メニューが生まれてくるかもしれません。現在のゼミ生がこれまでも熊谷に寄せていただいことがあり、学生間では、ラグビーメンチ、ラグビーユニフォームのクッキーの試作品をつくろうといった話も出ているようです。他大学との連携やコラボは、学生たちにとっても刺激であり、新しい発想と実践の原動力になっているものと思います。
藤間
「サロン」は、溜まれる場所として、今後重要視されてくるのでしょうね。
大下
まちづくり熊谷のホームページに寄稿させていただきましたが、人口増加期と停滞期のまちづくりには大きな違いがあり、人口停滞期に「サロン」が設けられていたのです。銀閣寺の時代は人口停滞期であり、西山文化の銀閣寺は、当時のトップクラスの人々が集うサロンとしての機能もあったのです。茶道に関しても、最初は健康、そして闘茶を経て、茶道という文化に育てあげていく。人口が伸びない時代には、お茶会等を開催して人が集まっていろいろな話の中から、新しい取り組みを展開するヒントを得ていたと考えると、人口停滞の現在、「サロン」の必要性が理解できると思います。
藤間
人口が伸び悩む時代は、質素であっても、「満足感の高い暮らし」をしていたと思いますね。当時と現在との違いは「個人主義」になった点ではないでしょうか。子育て支援という考え方や制度が、そのことを如実に示しています。地域再生においては、中小企業等の地域産業が、高付加価値のあるものへと転換し、雇用を創出し、本来の共助のしくみを再生させることが基本であると思っています。値引き合戦を繰り返していては、地方創生も程遠く感じざるをえません。
大下
観光は、これまでの状況を俯瞰(ふかん)していると、値引き合戦の方向に向かっているように思われますね。
荷見
安全性の確保の観点からも、値引き合戦も限界なのではないかと思います。利用者側も、観光の「格安感」といったことから脱却しないといけないですね。
大下
熊谷での新しい観光への展開においては、広くターゲットを求める戦略ではないと思います。これを求める以上、観光の付加価値は生じてこない。値引き合戦の渦の中に陥ってしまうと、どこにでもある体験と食を提供することになってしまうと思います。より厳選したものを提供するという「出し惜しみの観光」「半歩先をいく成熟化された観光」を目指していただきたい。
藤間
自社の職員に「イノベーションを考えろ」といっても理解できないので、最初に「組み合わせ」から考えるように咀嚼して伝えています。次に「競争を回避すること」を考える。さらに「連携のしくみ」を考えることです。また「自分のネットワーク力の再構築」も必要です。
大下
連携といえば、藤間社長からお話いただいた「産業間の連携」がありますね。観光でいえば、農業や食等との連携、ものづくり産業との連携によって、新しい体験メニューが生まれてきます。次に、子どもたちや学生、現役世代、ベテランの方々までの「世代間の連携」も必要です。さらにひとつの地域では限界がありますので「地域間の広域連携」も必要です。合併によって一緒になった妻沼や大里等との連携、隣接地域の連携等の展開も必要でしょう。さらにテーマでつなぐならば、近代遺産の絹の道として、富岡、下仁田、藤岡、伊勢崎、本庄、深谷と熊谷の連携も進んでいるようですね。
荷見
関東運輸局の観光地域振興課も関わらせて頂いていますが、最終的には横浜までつなげるような考え方です。
大下
東京都の八王子も、買い場と花柳界がありましたのでよろしくお願いしますね(笑)。
藤間
富岡製糸場は、明治初期に外国人技術者を招き、日本式の形態として木造レンガ造を考えた建築物が見どころだと思っています。熊谷では、絹関連の製造資産が、片倉の資料館になっております。熊谷農業高校は、現在、養蚕も行っているので、その連携の中で、新しい取組みが展開できないかと願っています。
観光まちづくりを進める組織に求められる機能
大下
これまでの鼎談の中で、これからの熊谷の観光まちづくりのテーマにつながるヒントを数多くいただけたと思います。熊谷の魅力は、広く、かつ深いものです。まだ、熊谷の魅力が伝わっていないように思われます。では、どのようにプロモーションすればよいのか。これからどのように進めていけばよいかということに集約されていると思っています。
荷見
日本版DMOが注目され、広域連携や地域版のDMOの地域指定がされています。観光協会、交通事業者、宿泊業、まちなかの商業者や飲食店、農林業、地域住民、行政等が一体的に地域の観光情報をプロモーションしていくような取組みが求められてきています。それを取りまとめていくのがDMOに求められる機能です。しかし地域の理解が得られず、行政と観光協会だけが頑張っているのが現状といったところです。
地域での理解を得るには、観光客の増加が地域経済に及ぼされないといけないと思います。DMOはプロモーションだけでなく、地域全体として経済効果を受け止めて、理解者を増やしていく努力も必要となってくるものと思っています。
大下
DMOの組織が言われる前に、観光まちづくりを展開するための機能として、学会誌に投稿したことがありました。観光まちづくりを円滑に進めるためには、観光協会は、地域内でのランドオペレーション機能を担い、プロモーションは商工会議所(あるいは商工会)が担うことで、地域内で専門化して相互連携が可能となり、結果として「地域力」が高まるといった内容の投稿でした。現在のDMOが、地域プロモーションとランドオペレーションの両方を担うとなると多大な業務量となるのではないかと危惧されます。
荷見
現在地域認定されている組織体を概観すると、市区町村単位のもの、県全体のもの、広域連携のものと様々ですね。
大下
DMOはプロモーション機能が先行していますが、むしろ、マーケティングに基づいて戦略的に観光施策展開の主体的な役割を担う組織であると考えて良いのでしょうか。
荷見
来訪者の属性と、来訪を期待するターゲット層の志向を踏まえた戦略を見定めることが重要な任務ですね。
大下
マーケティングに基づいた商品造成と、関連する人々との調整、派生的に裾野の展開につながる取組み展開が求められているのですね。
藤間
熊谷で進めるとなると、一体どこが中心となって行うのかが見えてこない。民間企業もイノベーションが難しい環境にあって、また、行政、観光協会、商工会議所などの既存組織においても、これまでの組織としての取組みの経緯があるので、方向転換には権限と、人材と資金が必要になります。
大下
観光というと、これまで多くの市区町村では、産業系の部署の中に組織化されています。観光は、幅広い分野と関わるとはいうものの、行政の事業課としての位置づけでは限界があります。都内大田区の観光部署は、以前は産業系の部署にありましたが、現在は企画系の部署に移り、国際都市と観光を所掌しています。これは、羽田空港の再国際化を経緯とし、2020年を意識しているのかもしれません。企画に置くことで、すべての部署が関わりをもつことになります。市役所の再編に対して提案はできませんが、別途観光協会の民営化の検討が進んでいる中で、まちづくり熊谷が今後、どのような分野を担っていくかの議論はできると思います。特に、プロモーション的な機能は、すべての組織が行ってもよいと思います。
藤間
まちづくり熊谷としては、ビックデータを活用したマーケティングに基づいた戦略を定めて実践的に取組むことが求められると思います。プロモーションに関しては、組み合わせと連携の中で進めていく分野でしょう。
大下
それに加えて、本日の様々なアイディアの中で、地域をコーディネートしていく役割ではないでしょうか。“血が騒ぐような”“ワクワク・ドキドキする”を目指して、旧来型の観光に留まらずに、新しくスポーツやスポーツ文化への展開、食、医療・健康増進、まつり等との関連性を訴追することが基本となります。それらを総括すると、コーディネートする対象分野としては、「スポーツツーリズム文化創造・発信」「連携ネットワーク・まちなかサロン創出」「まちなか回遊・まちめぐり誘発」といった3つの柱ではないかと思います。
藤間
先生が総括いただいた内容は、その通りだと思います。また「連携ネットワーク・まちなかサロン創出」「まちなか回遊・まちめぐり誘発」のコーディネートは、うちわ祭との接点や実績、またこれまで取り組んできた内容や関係者の直接的な経験則からみて、実現性は高いと思いますね。
問題は、「スポーツツーリズム文化創造・発信」です。門外漢なので、俄かには、進め方のイメージがつかないのです。
荷見
新しい取組みを展開するには、誰をリーダーにするかが最も大切でしょうね。広域連携の際には、その役割は、地元で力のある方か鉄道事業者さまですね。これからの時代においては、それぞれの専門性のある方々を束ねて進めていく方法もあると思います。
大下
スポーツツーリズムは、現状では2020年がひとつの節目となっていますが、それで終わるものではありません。観光庁や運輸局にしても、また業界団体にしても、手探りの新しい分野であると思います。
まずは、スポーツ文化公園の既存インフラの魅力的活用の一環として、既にイメージのあるラグビーや、近年脚光を浴びているサイクルスポーツ等の聖地化を目指した取組みを、熊谷が一体となって進めていくことを表明し、その具体化に向けた研究に着手することを示す。
ここまでは関係者が集まって行うことであり、まちづくり熊谷としては、全体の企画・コーティネートが実施可能でしょうが、専門性のある組織に委ねることも多くあると思います。
藤間
共有できる将来像に向けて、それぞれの専門性の組み合わせることが、熊谷版のDMOに求められる業務であると感じています。地域によって個性があるので、国が考えているすべての業務を担うことは難しいと思いますね。
大下
いずれにしても「スポーツツーリズム文化創造・発信」は大きなテーマであると思います。まちなか回遊やサロン創出が、比較的実現可能性が高いからといって、そこかから入ってしまうと、それだけて終わってしまいかねない。あくまでも、「スポーツツーリズム文化創造・発信」の派生的なものとして、まちなか回遊やサロン創出があることを示した上で、まちなかで何か動き始めたという先導的な取組みとして、事業展開を図ることが必要であると考えられます。
総括~熊谷の今後の観光まちづくりの方向性について
大下
予定していた時間が過ぎましたので。本日の議論を改めて整理しておきたいと思います。
都市観光による地域活力向上を多くの地域で模索している中にあって、熊谷では、競争回避を基本とし、「限定感」「優越感」を感じてリピートしていただける限定された顧客層をターゲットとした観光・集客を目指す。これは、今後アピールする商品やテーマ・編集する物語等にもつながってくるものとなります。
熊谷うちわ祭の極意から学んだこととは、まちなかで“血が騒ぐ”あるいは“ワクワク・ドキドキ”できるような取組みを日常的に展開することを目指すことが必要であることです。
まちづくり熊谷としては、「稼ぐ力」を生み出すことの手伝いを基本とし、ビックデータを活用した戦略づくり機能、情報受発信・プロモーション機能、そしてまちなかでのコーディネート役割を担う。
熊谷のまちなかにおける大きな今後の戦略は、「スポーツツーリズム文化創造・発信」「連携ネットワーク・まちなかサロン創出」「まちなか回遊・まちめぐり誘発」であり、「スポーツツーリズム文化創造・発信」を柱に、派生的な位置づけとして「連携ネットワーク・まちなかサロン創出」「まちなか回遊・まちめぐり誘発」を捉えて、できることから先導的に進めていく。
「スポーツツーリズム文化創造・発信」は、国としても新しい取組みでもあることから、熊谷が一体となって進めていくことを表明し、その具体化に向けた研究に着手することを示すとともに、まちづくり熊谷は、専門性の高い組織をつなぐ役割を担うことは可能である。
以上が、本日の議論で総括しておく内容ではなかったかと思います。2時間を超える議論ありがとうございました。全体の半分以上は、藤間社長の熱弁であり、さぞかし喉がかわかれたのではないかと推察しております(笑)。
最後に、荷見課長から一言、お願いいたします。
荷見
本日の鼎談では、うちわ祭の話、さらには新しく取組む内容にも、うちわ祭で継承されてきた手法が、随所で活かされることを学ぶことができました。不易と流行で、伝統的なまつりの中において、変えないものと新しい取組みとを加えて現在に至っていることを改めて学ばせていただきました。
最初にお話させていただきましたが、観光では、やはり交通条件は必要不可欠であると思います。熊谷駅からスポーツ文化公園までの徒歩50分は、“いい汗かく”には良いのでしょうが(笑)、やはり遠い。スポーツ観戦は、老若男女の参加が期待されますので、2次交通の対応は必要であると感じています。また、欲張りになりますが、熊谷は、利根川と荒川に挟まれた地域であると思いますので、川を活用した戦略も加えられればよいかと思いました。
これからの新しい取組みに関しての推進力のためには、専門性を活かして活動しやすいようなコーディネート力の向上が求められてくるものと思います。観光を学ぶ学生が、都市観光のまちなかでの活動や、道の駅での企画・提案活動のニーズがあるように、スポーツ文化関連においても、今後スポーツ経営等を学ぶ学生たちの集いの場所になるようことを期待しています。
若者たちには、柔軟な発想力に加えて、独自のネットワークや情報発信力にも期待したいですね。それが関わってきた地域への愛着や帰属意識にもつながると思います。是非、そのコーディネート役として、まちづくり熊谷が活動されることを願っています。
最後に、やはり地域経済への波及、来訪者の消費の促進を基本に置いていただかないと、持続可能とはならないと思います。
大下
協力者の確保と展開の面でも、地域の経済効果は必要不可欠ですね。消費促進には、北風と太陽の両方の戦略があります。来訪者の財布に期待はしますが、熊谷では“北風的”に無理やり消費させるのではなく、“太陽的”な戦略で自発的に消費いただくことをめざしたいものです。スポーツ観戦の後の余韻を楽しめる街であっていただきたいと思います。
本日は、長時間にわたるご議論をいただき、ありがとうございました。
事務局
本日は示唆に富むお話しをたくさんいただきありがとうございました。なお、本日の鼎談の概要につきましては、弊社ホームページ等で公開したいと考えております。
(発言者:敬称略)
2017年12月8日